南アフリカの衝撃

著者:平野克己
発行:2009年
南アフリカの衝撃 日経プレミアシリーズ
南アフリカワールドカップ前に書かれた本。
著者も南アフリカの人もワールドカップが開催できるか不安に思っていたようだが、無事終わってよかった。
著者はジェトロという機関の人だ。


南アフリカといえばアパルトヘイト。1994年にマンデラが大統領になってアパルトヘイト廃止。で、その後どうなったの。日本の感覚でいえば、世紀末ヒャッハーのイメージしかないが、そんな疑問に答えてくれる本だ。


南アフリカの2009年の失業率は23.6%。5000万人に満たない人口なのに、毎年2万人近くが殺される。警察官も200人死んでいる。レイプ4万件、押し込み強盗25万件、武装強盗12万件、現金輸送車の襲撃200件、銀行強盗140件、まさしく世紀末ヒャッハー。


なんでそうなったかというとアパルトヘイト廃止後に当然黒人たちは経済的な豊かさがやってくることを期待していたのだが、その期待に政府が答えられなかったというのがある。まず鉱山業は実は60年代から頭打ちで成長しておらず、さらには80年代には原油など資源価格は低下した。そして製造業は、主たる産業を育てられなかった。農業も実は想像より全然雇用を吸収できていない。地方の農村では出稼ぎ労働者が多くいるそうである。


マンデラの後継者のムベキが採った政策はBEEという黒人優遇政策である。黒人の雇用比率やら役員比率やら教育のための支出などが点数化されある一定水準以上じゃないと官製入札には参加できない。そのため、大卒黒人は給与が高すぎて雇えないという状況が起こってしまった。しかし、こういった黒人は教育を受けられたごくわずかだろう。結果、世界一所得分配が不平等の国となった。
そういった不満から2009年に新大統領に選ばれたのはズマという人。しかし、この人も過去に汚職容疑で解任されたことがあったりレイプで告訴されたりなど、かなり危ない人物である。


日本人が一番多く住んでいるアフリカの国は南アフリカ。貿易も一番多くされている。
ただ本が書かれた時点では、南アフリカとの貿易は縮小傾向だった。日本の製造業が衰退してきて、原材料の輸入が減ったから。また、アフリカの農業も輸出へ減少し輸入が増えている傾向にある。
ただし、これからは違った潮流がみえている。中国相手ではレアメタルの採掘や輸入が規制される恐れがあるため、安定した取引相手として南アフリカは魅力的。企業だけでなく国も力を入れて貿易拡大をすすめていくよ。


低迷傾向だった南アフリカの鉱山業だが、ここ数年の世界的な資源価格の高騰や新技術によって深海油田の採掘が可能になったりといったのは追い風である。
しかし、地方の教育を受けられない黒人層に富がいきわたるのかどうか製造業や農業を育てられるのか、かなり疑問である。