「月給百円」のサラリーマン―戦前日本の「平和」な生活 (講談社現代新書)

「月給百円」のサラリーマン―戦前日本の「平和」な生活 (講談社現代新書)
昭和ひとけた時代の一般人の生活の調査。当時の月給から衣食住にかかる費用について等等。
かなり興味がある部分だったので楽しめた。たとえば、当時の住居費は現在と比べると割安であるが、いっぽう衣類にかかる費用は高かった。女性の和服に金がかかるためである。洋装もあったのだが、値段が安いことと手軽に着られることが、かえって普及のさまたげになったという部分が面白い。見栄というのが重要だったのである。
そう、今も昔も日本人は変わらないというのが、この本のテーマのひとつである。たとえば、当時の学生は勉強をせず、コピーにたよったり、酒を飲んで暴れたりしていたのだそうだ。それを見て大人は言うわけである。最近の若者はなっておらん、と。
また、昭和一桁時代は不況で就職率が悪かった時代である。小津安二郎の映画「大学は出たけれど」は、この時代に作られている。で、大卒者が職にあぶれた状況を見て識者がこう述べる「仕事を選んでいるから職につけないのだ。ブルーカラーでもいいからとにかく仕事につこうとしろ」一方では若者を擁護する識者もいて「そもそもブルーカラーの人でさえ仕事にあぶれているのだ。大卒者がブルーカラーになろうとしても仕事につけるはずがない」このあたり現在と構造が同じなところに思わず苦笑。


時代を連続的に見られるのもためになったところ。第一次世界大戦時には好景気で、大学卒者は銀行や各種産業に入社して、かなりの給与やボーナスをもらうことができたらしい。当時は、会社員というのが数少ないエリート層で、さらに当時は大学でも帝大ならば他の大学よりも給料が高かったのだそうだ。それゆえに、昭和初期から進学競争が過熱していたようである。不況期に入社した若手社員に、好景気を体験した上司が「あのころはボーナスいっぱいもらってさ」なんて昔話をはじめてたわけだ。歴史は繰り返す。
東北地方の出身者が東京人の生活を見て「故郷の農民がみたら革命を起こすでしょうな」と言った話が印象深い。その後、戦争時に東京人は疎開して地方に行った。そこでいじめにあったりしたのは、この経済格差も原因のひとつではないかと推測されている。