羽生善治のこった日記2021 第80期順位戦A級6回戦 対山崎隆之八段戦

ネットの記事で羽生さんがA級から落ちるピンチだと報じているのを見かけた。

だが私は今年度当初から、これを想定し追跡してきたのだ。

だから偉いわけではないが、長く楽しめてると思うね。

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6回戦のうち1局が既に終了。佐藤怪鳥×広瀬八段は広瀬勝ちで両者3勝3敗。今期は星が割れるねえ。4勝5敗で降級も十分ありそうだ。

 

羽生さんの対局相手は山崎八段。現在のA級棋士のなかで唯一タイトル獲得経験がない。年齢も40歳で佐藤怪鳥、羽生さんについで年長。それでいて今期初のA級入りという、これまでの実績でいえば明らかに格下ということになる。

これまでの成績も羽生18勝、山崎5勝と羽生さんが圧倒している。直近は山崎さんが3連勝中である。ただ山崎さんが勝った5局は持ち時間が短いテレビ棋戦などで、持ち時間が長い順位戦などでは山崎さんはまだ勝ったことがないのだそうだ。

 

羽生さん既に崖っぷちであるが、相性もよく、実績もなく、降級争いをしている山ちゃん相手には絶対負けられない。

 

もちろん山ちゃんも、ここで勝てば残留の可能性はある。さらに前局で待望のA級初勝利、さらに数日前には佐々木勇気さんに勝つなど好調な印象を受ける。

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後手の山ちゃんは2手目に3二金と変則的な手を指してきた。

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これまで実践例がない形を力戦型という。山ちゃんが得意な形だ。ただ、羽生さんだって力戦型が好きな棋士なのである。

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ただ、乱戦というわけではなく、中盤が長そうな将棋。これは、両者力を出せる形といえるのではないか。

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さて、局面が動きそうだ。後手が4四歩として先手の銀を追い払う。

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そして後手が歩を伸ばす。

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後手は歩を損して飛車を展開。

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後手が攻める。ただ、桂馬が参加しておらず、わかりやすい攻め筋は見えていない。といっても先手の玉の真上から攻められており怖いところだ。連盟アプリのAIは互角の評価である。

と、ここから先を見ていたらいつの間にか眠ってしまった。飲みすぎが原因である。

そして翌日記録する。ちょうどネット記事で感想戦も記されているので紹介も交えよう。

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羽生「(59手目)▲7八玉に△4六銀出られて、わるくなっちゃったような気がしたんで・・・」

という記事が載っていた。

ただ、連盟アプリのAI評価ではまだ互角である。

後手の銀は只で取られてしまいそうだが、上図から▲同金、△同角、▲同角には△4五飛と銀を取られてしまう。上図から▲同角、△同角、▲同金には△6六歩が厳しいとのことだった。(△6六歩を▲同金と取ると△3九角の飛車金両取りがかかる。

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駒の損得は先手が1歩得してるだけで、ほとんどなし。玉の固さも同じくらいだろうか。私レベルでは評価できないのでAIの評価値が頼りだ。だからAI採用もよかったと思う。

さて、ここで▲1二角として評価値が後手に触れた。

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山崎「さすがに負けにくい・・・。さすがに私でも・・・」

とある。山崎さん形勢に自信を持っていたようだ。

 

確かに先手の桂、香が働いていない。先手は歩切れ。

ここで1一銀と打ったのが羽生流の勝負手だろう。

 

私は飲みすぎて眠ってしまっていた。翌日朝方に目が覚めて銀打ちを見たが、一目苦しいと思った。連盟アプリの評価値も先手が悪いままだ。

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後手は飛車を成りこむことに成功。先手の攻めは細く、重い。ここから先手が勝つ筋が見つからいように見えた。

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ここが問題の局面。両方の玉が危なくなってきたが、どちらのほうがより危険なのか。攻めるか受けるか。

山ちゃんも残り時間は2分しかなくなっている。

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山ちゃんは受けた。これで一気に評価値は互角近くに戻る。正着は△6七銀と攻める手で、これで後手が勝勢だったようである。

ただ、それでも連盟アプリではまだちょっとだけ後手のほうが評価値が高かったのだが勝負には流れというか勢いというのもある。

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逆に攻めが細い後手が無理気味の攻めをすることになってしまった。

AIの評価は先手優勢になった。見ている私も、これは羽生勝ちと思ってしまった。

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久しぶりに羽生マジックという言葉を思い知らされた。

これで羽生さんは2勝4敗、山崎さんは1勝5敗と明暗が分かれた。

 

B級1組は藤井聡太さんがいつのまにやら首位になっていた。羽生さんが今期落ちると、二人は順位戦では戦わないままということになるかもしれない。

 

とにかく山崎さんは残りを全部勝つつもりでいなくてはいけなくなった。