前局を落とした藤井さん。残り2局で、下から2番目という成績は堂々の降級圏内である。
しかし、のこり2局を連勝すれば降級はかならず回避できる。
今日の相手は中村八段で既に降級が決まっている。たぶん、あまりやる気もないだろうから、絶対に勝たなければならない。
藤井は先手番なのに、角交換振飛車を採用。
後手の角打ちに対し、9筋に飛車を寄るというのが藤井さんの趣向のようだ。
相手だけ角を手放しているし銀が壁形になっているというのが、先手の主張である。
後手の攻めも駒が足りないので、すぐに先手玉がよるわけではなさそうだが。
しかし、嫌な形だ。
そのうえ、藤井さんの持ち時間もかなり少ない。
本局のハイライトは、この局面だろう。
現在、先手玉は△3五銀、▲同歩、△同竜までの詰めろになっている。
さて、藤井さんの受けは。
藤井さんは2六角と打った。詰めろを消しながら攻めもにらんだ手。一見、攻防に利いた名角にみえる。しかし、これは大悪手であった。
歩の利きに銀が出る華麗な寄せがあった。
次に△5五銀打、▲同香、△同金でも詰むし、△3五銀打、▲同歩、△同銀、▲同角、△同竜でも詰む。
この銀を取るしかないが、▲同歩なら△4五銀、▲同玉、△4七竜、▲4六相、△3三桂、▲3四玉、△2四金で詰む。
▲同角なら△同歩と取り返した手が、これまた詰めろ。
藤井さん、この手を見て投了。64手の短手数の勝負となった。持ち時間も多少残っていたし、たぶん直前の手を見落としていたのだろう。
大事な一局を終盤の見落としであっさり負けてしまう。藤井猛、役者である。
そのうえ降級圏内にいた他の棋士が数名勝って絶体絶命の危機である。