アダルト・ピアノ―おじさん、ジャズにいどむ (PHP新書)

40過ぎになってからピアノを始めた井上さんの本。新書の硬いイメージもここ2,3年ですっかり吹っ飛びましたな。もてるおじさんともてないおじさんの違いの考察はなかなかためになった。彼はホステスにもてようとおもったのだが、中学生と仲良くなったエピソードが興味深い。中学生と仲良くなろうと思ったらピアノを始めよう。おちゃらけた本なのだがいちおうまじめにかたっている部分を抜粋。

クラシックの基礎練習は、とりあえず個性を捨てることからはじめる。ピアノの場合も、みょうな指癖ができないように矯正することが、まず目指される。そうやってがんじがらめにされながらも、演奏家としての情感をかもしだす。拘束されながらも、これに屈服しきらない感性をはぐくんでいく。


だが、たいていのピアニスト志望者は、基礎練習をつみかさねることで、表現をうしなう。ただただ上手にひきこなす、一種のマシーンとなっていく。そして、ごく一部の天分にめぐまれたものだけが、それをまぬがれる。


考えてみれば残酷な世界である。基礎訓練という名のもとに、生徒は自分を抑えることがまず求められる。ハノンの世界にまず飼いならされなければならない。最終的には、その規律をはねかえす才能が求められるのにも関わらず。