羽生善治のこった日記2021 第80期順位戦A級2回戦 対菅井達也八段

1回戦の対佐藤会長戦は逆転勝ちで白星発進となった羽生九段。

 

2回戦の相手は菅井達也八段。これまでの対戦成績は羽生さん5勝。菅井さん7勝。タイトル戦では羽生さんが持っていた王位を菅井さんに取られてしまっている。菅井さんは羽生さん相手で委縮するような相手ではないだろう。

 

菅井さんは現A級棋士のなかでただひとり振り飛車をメイン戦法にしている。後手の菅井さん4手め3二飛とした。

 

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振り飛車には角交換という格言がある。早い段階で角交換すると角の打ち込み場所が多い振り飛車が不利という意味だが、今ではその格言はあてはまらない。

しかし、ここで角交換すると先手の勝率が高いようだ。そして、羽生さんは角を交換する。実は羽生さんはこういった乱戦が好きな棋士である。

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まるでアマチュアの将棋のようだが、ここまでで同じ形は過去にでている。

ただ、この局面は互角ということはないだろうということで、実践例は少ないようだ。

 

過去に同じような形がない将棋を力戦型という。これはそういう形だ。

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このあたりでの形成判断はどうなるのだろう。後手は美濃囲いで固い。飛車先も通っている。

ただ、歩は先手が得をしている。攻めの桂馬も1段飛んでいる。

しかし、先手の2枚並んだ銀は歩越銀で、活用は苦労しそうだ。飛車を成りこみあったら遊びごまになってしまいそう。

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羽生さんが敵陣に飛車を打ち込んだ局面。しかし、1二角と打たれると次にただで取れる駒がない。ただ、後手角を重ねて打ってしまって不用意に動かせなくなってしまっている。

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この3二金の後に☗4一飛車成☖4二金☗3一竜☖3二龍を繰り返して千日手になった。

 

それが21時19分。先後入れ替えて対局開始が21時49分である。

 

この時点で羽生さんのほうが持ち時間が少なく、さらに後手番になる。さらに、対局が深夜まで続けば体力勝負になる。そうなれば羽生さんも50歳体力勝負になればきつかろう。

羽生さん不利だなと思いつつ寝てしまった。 

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翌日見たら、羽生さんは負けてしまっていた。

やはりなどと言ったら失礼だろう。この将棋も難しい将棋だった。

ただ、終局時は1時24分である。そのときの、羽生さんは残り時間が1分。1分未満は切り捨てなので、0分になったら負け。つまりはもう羽生さんは残り時間なくて1手1分未満で指さなければならない。対して菅井さんの残り時間は21分。

 

将棋には相手の残り時間が少ないときに、自分の持ち時間がたくさんあってもすぐに指す時間攻めという戦術がある。これがそうだったのかわからないが、時間が深夜に及び持ち時間が少ないとベテランには不利だ。もちろんそれを織り込んで勝負しなければならないのだが。

 

ともかく羽生さんこれで1勝1敗である。