羽生善治×AI

羽生善治×AI

長岡裕也 棋士番号256

タイトル挑戦なし 順位戦最高位C級2組

 

私は将棋のタイトル戦などは追っているのだが、将棋雑誌は久しく読んでいないので若手棋士とか棋士の交流とかそういったことはわからなくなっている。

 

著者の長岡五段のことは全然知らなかった。プロ入り後だいぶだっているのに段位は最近六段になった。昇級はなく、この年齢で降級点2回だから、かなり低迷している棋士と言える。

しかし、そんな彼は羽生さんに誘われ2人で研究会をやっている。2009年、羽生さんが渡辺さんに将棋界初の3連勝からの4連敗で負けてしまった直後からだそうだ。

 

当時若手でまったく実績がなかった長岡さんのことを羽生さんが研究会に誘った理由は、当時長岡さんが雑誌の連載で、研究成果を出し惜しみしなかったため、内容が高度だと羽生さんが感心したことのようである。また、長岡さんは羽生さんが出身の八王子将棋クラブの後輩でもある。

 

本のタイトルにAIとあるが、後半に書かれているAIについてのことは特に目新しいことはない。羽生さんをはじめ、佐藤会長などの同世代のトップ棋士はコンピューターを将棋の勉強の中心にはすえていない。また、コンピューターの指した手をちょっと取り入れればそれで勝てるようになるわけではないというのは、なんとなくわかる。

 

それよりも前半の羽生さんとの研究会の細部が面白かった。研究会の場所は羽生さんが都内の会議室をセッティングする。昼食はいろいろだが中華が多い。ラーメンの頻度もそれなりにある。

羽生さんは世間の印象より話好き。著名人と対談をたくさんしてるだけあって知識は幅広い。おやじギャグも言う。

羽生さんはほかに、木村一基さん、松尾歩さん、村山慈明さんがメンバーの羽生研の他、佐藤紳哉さんとの研究会もやっている。

 

印象に残った話。

 

 いわゆる羽生マジックといわれる手は、相手のミスを誘うような手ではない。そういう手をさすといっぺんに終わってしまう。自分が悪い局面でも最善手を粘り強く指し続けられるところに羽生の強さがある。

羽生さんは好きな言葉に「運命は勇者に微笑む」という言葉をあげるが、同時に将棋の踏み込みと人生の決断は違うということも言っている。また、羽生さんの将棋はリードしているときは手堅い手を指す。

将棋に熱心なのは奨励会員で、最新の定跡にもくわしい。ベテラン棋士がそういった若手と研究をするようになったのを始めたのは米長さん。

羽生さんは忙しい中でも、八王子将棋クラブに年に1回指導対局を行ってきた。他に、冠婚葬祭やイベントなどできる限り参加しているようにみえる。しかし、それは義務感だけで続けられるものではなく、将棋界のためが自分のためになると考えられる人だ。

また、コンピューターでプロ棋士の存在が脅かされそうになっても不満をいわず、自分にできることをやるしかないという信念を持っていた。