藤井猛全局集 竜王獲得まで

藤井猛全局集 竜王獲得まで

藤井さんの全局集が最近出版された。1冊目は竜王獲得まで。今はよくても、最近のボコボコにされてる棋譜も本にするのだろうか。

 

それはともかく、これは必見の本である。

もちろん、将棋の解説や藤井システム開発の経緯についても興味深い。

 

それ以上に面白かったのが藤井さんの個人的な記録である。妻とのなれそめまで書いてある。まえがきに、この本を出すために棋士になったのではないかと書いてあるだけあって、力が入っている。加えて、藤井さんは自分では文を書くのが苦手と言っているが、なかなかに文もうまい、というか味がある。

 

将棋を覚えて奨励会に入るまでや、奨励会での勉強方法などが、綴られている「ぼくはこうして強くなった」という章は必見である。

 

小学校4年生のときに同級生から将棋を教えてもらったが、その彼はすぐに転校していったこと。北村八段の本を買ったら、居飛車の駒組みはかっこわるいのに対し、振り飛車の美濃囲いが美しかったこと。父は将棋をあまり知らないが、祖父はやっぱり美濃囲いが好きだったらしいこと。

 

近所の将棋好きのおじさんと小学校6年くらいまでは指したが、それ以降は本で学んで強くなったこと。アンチ巨人の父親の影響で中日が好きで、野球を見て将棋の本を読むそんな生活だったこと。

 

将棋雑誌を見て、塚田泰明さんの生活を見てプロにあこがれたこと。将棋普及のボランティアを学校の先生に紹介されてプロへの道が開いたこと。

 

遅く受けた奨励会試験は不合格だったものの研修会で昇級して自動的に奨励会に入ったこと。1級で勝てなくなったけど、年下の三浦弘行九段と出会って自分の将棋が変わったこと。

 

最初は大内流の振り飛車、それから相穴熊を得意戦法としたこと。そして、奨励会でも少ない振り飛車党で一足早くプロ入りした杉本昌隆さんの影響を受けて、自分も振り飛車一本にしぼって奨励会を勝ち上がったこと。

 

将棋を覚えるのが遅く、若いときから才能があるとは思われていなかった藤井さんがタイトルを獲得するまでになったのは、準備、これにつきる。考えて対策し準備を怠らなかった。そういった物語に加えて人生論、ビジネス論としても読める、とても面白い本である。