巨乳アイドルブームとは何だったのか

1990年あたりから、かとうれいこ細川ふみえを筆頭とする巨乳アイドルがブームとなった。なぜ、男は巨乳を求めたのか?考えてみたい。重要なのは、このブームがバブル崩壊とあいまって起こったということである。当時から、不景気で疲れ果てた男たちが一時の楽園を求めて母性あふれる巨乳を求めるというような具合に語られることが多かった。そして、今でも巨乳=癒しとして振り返られることが多い。しかし、事はそう単純ではないのではないか。


バブル時代、女どもはブランド品を買いあさり、男をアッシー、メッシーと呼んでいいように使いまくった。男だって負けていない。外車やブランドもののスーツに身をつつみ、高級レストランに連れて行った女とセックスするのは苦労は多いが楽しかった。役割は大きく違ったが力関係はつりあっていたといえるだろう。
しかしバブルは終焉を迎える。興味深いのは、90年代前半の当時は、不景気になってますます女は社会進出の意思を強くしたということである。大学への進学率はあがり、医者や弁護士から料理人、トラック運転手まで、これまで男しか就こうとしなかったさまざまな分野の仕事を女は求め始めた。そして、女は賃金や出世などについて男と同等の処遇を求め始めたのである。田嶋陽子TVタックルで吼えまくったのもこのころ。職場のお茶くみやミスコンテストなど旧来の女の役割というものが否定された、というか男が女の価値を決めることが許されなくなった。乱暴に言ってしまおう。女は、男が金を持たなくなり女に金を使えなくなったと見るや、おぼれた犬を棒で叩くように男の地位や仕事を奪い始めたのだ。そうした背景を考えると、この巨乳ブームに違った側面が見えてくる。


巨乳とは何なのか。


1 巨乳はバカである。
もちろん偏見であるが、会社の上役だの社会的地位の高い仕事と巨乳はそぐわない。実際、ブームの中あまた誕生した巨乳アイドルの中に頭が良いことを売りにしたものは一人もいなかったと思う。


2 巨乳は努力では手に入らない。
勉強しても法に訴えても男を攻撃しても巨乳だけは手に入らない。生まれ持ってのものである。


3 巨乳の価値は男が決める。
料理からファッションまで大半の消費は女がリードしている。つまり女が認めたものが価値を持つことができるのである。しかし、おっぱいだけは違う。男が褒めるからおっぱいは価値があるのである。女だけが褒めるおっぱいなど駄乳以外の何物でもない。


4 しかし女も乳を気にする。
女がおっぱいに無関心だったら巨乳ブームはなかったのではないか。しかしどんな女も巨乳までは求めなくてもおっぱいの大きさは気にするのである。そこが男にはザマミロなのだ。


5 巨乳は垂れる。
我々は巨乳を見たときに、これが何時垂れるのかということを考えずにはいられない。キャリア志向の女が忘れようとしている、女は年をとるという現実を、巨乳は絶えず突きつけてくるのである。


6 女の敵は女である。
どれだけ時代が変わろうとも、仕事はほどほどにやって機会があれば専業主婦になろうとする女は一定数存在する。そして、そんな彼女たちの存在が女性の立場を低くしていると眉をひそめるキャリア女もいることだろう。職場の腰掛OLと巨乳アイドルは、仕事ができない(できなさそう)という部分についても、男が褒めることに存在価値があるという部分についてもキャリア女の敵という点で共通する。


これらから導かれる結論はただひとつである。巨乳ブームとは、景気が後退すると同時に男の地位を脅かそうとしてきた女たちへの、男たちのささやかな抵抗ではなかったか?ネット全盛の今テレビの地位は低下したが、70年代〜80年代のテレビは違った。芸能人は雲の上のような存在で、女性アイドルは崇拝的な人気があった。昔のアイドルはけっしてウンコしなかったのだ。女アイドルを崇拝的に扱えるというのは男が自分の立場が下であることに甘んじられることであり、逆に言えば現実が安定していた、それだけ心の余裕があったことの裏返しだろう。しかし時代が変化し、現実の社会の中で女が男以上のステイタスを得て、自分が女性に見向きもされない可能性が出てくると、男は女を崇拝的に見るような心の余裕はなくなってくる。そこで求められたのが巨乳アイドルだ。巨乳アイドルは顔はいまいちな人が多かった。サンズ(元イエローキャブ)の野田社長は「巨乳でブスの方が良い」とまで言っている。そもそも巨乳という言葉自体に、ちょっと下品なジャンク的な響きがあるではないか。
顔は十人並み、目立ちすぎるおっぱいを持ち(しかもすぐ垂れちゃう)、巨乳と呼ばれて水着で笑うアイドルたちは決して女性のあこがれにはならないだろう。しかし、そんな彼女たちは男が認めるからこそアイドルとしての地位を維持していられる。男は、そんな部分でしか男の優位性を確認できなくなったのである。


そして、あれから十余年。会社の中で出世していくことが決して旨みのあるものではないと女たちも気づいたらしい。女の社会進出は一段落し、同時に巨乳ブームも去ったのである。