エジプト革命 軍とムスリム同胞団、そして若者たち

作者: 鈴木恵美
発行:2013年
エジプト革命 軍とムスリム同胞団、そして若者たち (中公新書)
エジプトも長らくムバラク大統領の独裁が続いていた。
それが2011年の革命で終わりを告げた。
エジプトの革命とはなんだったのか、そしてその後はというレポート。


エジプトの大統領は初代のナギーブから四代のムバラクまで軍出身。でも大統領は軍を完全に統括できているわけではなく、軍もかなり独立性をたもっている。そのため、ムバラク辞任時にもきっかけは民衆の運動だったが最後に引導を渡したのは軍部が大統領に協力をしないと決めたことである。


ムバラク退陣後、民主化を進めることとしたのだが、その際は軍部と青年勢力との交渉が行われた。しかし、ここであつれきが起こる。軍部が提案する政府の人事案などに青年勢力が反対をする。次第に軍部はいらだってくる。青年団はデモをする。なぜか青年団のデモに熱狂的なサッカーのサポーターや浮浪者のようなものが加わり、警官隊たちとの衝突で多数出た死傷者は運動家ではなく何故か彼らである。バカ騒ぎに便乗したということだろうか。


選挙の前に政党が組織されていくのだが、その際既存の宗教組織ムスリム同胞団が活動を行い、選挙制度を自分たちに有利なように設定。そして、議会選挙の結果、多数の席を獲得したのは宗教組織がバックにある政党ばかりである。宗教組織がバックにあると当局からも活動が制限されにくく、また地方の農村の住民にも支持をえられやすい。青年活動家にとっては大きな失望である。


さらに大統領選挙でも、青年活動家やリベラル派の支持した候補者は第3位。1位と2位の決選投票となるが、ひとりはムスリムが指示するムルシー。もうひとりは前大統領が退任時に後継者に指名したシャフィークさん。この人が2位なんて革命とはなんだったんでしょう。青年たちはやむをえず決戦投票ではムルシーに投票。そして大統領選挙の結果選ばれたのはムルシー。


しかし、ムスリム同胞団側の人間でイスラム色が強く、就任後はすぐにリベラル派や青年勢力などと対立。さらに経済的にもうまくいっていないようで、一般生活者からも不満。またまた大統領への退陣要求が行われる。


なんで選挙の結果選ばれた大統領に一年かそこらで退陣要求されるのかというと、ひとつは選挙の結果が信じられていないということ。農村部の字が読めない人の選挙は、組織的動員で誘導された結果の可能性が高い。もうひとつは、たとえ選挙で選ばれても、その後の運動によって大きなデモ等があれば、そちらを民意とする国民意識がある。昔からエジプトの国民はイギリスに反対するなど、そうやって政治をしてきた。


「エジプトに民主主義はまだ早い」と前ムバラク大統領時の補佐官は言っている。